先日、ある高級腕時計に関する本を読んでいたところ、非常に興味深いことが書かれていました。
それは、高額な腕時計を購入することは、必ずしも単なる贅沢や消費ではなく、現金という資産を別の形の資産に置き換える行為でもある、という考え方です。
これを読んだとき、まさに我々が長年扱ってきたクラシックポルシェにも同じことが言えるのではないかと思いました。
今回は、そんなポルシェの価値について、少しお話ししてみたいと思います。

■ 1,000万円のポルシェを買うことと、1,000万円を使ってしまうことは違う
例えば、海外旅行に100万円を使ったとします。
あるいは、高級レストランやクラブで100万円のワインを注文したとします。
どちらも素晴らしい体験ですし、その人にとって十分な価値があることだと思います。
ただし、その100万円は旅行や食事を楽しむために使われたお金であり、基本的には手元に資産として残るものではありません。
言ってみれば「贅沢な体験を購入した」ということになります。
一方で、1,000万円のクラシックポルシェを購入した場合はどうでしょうか。
確かに1,000万円という大きなお金が手元から出ていくわけですが、その代わりに1,000万円で購入したポルシェという実物資産が手元に残ります。
つまり、1,000万円を消費してしまったのではなく、現金という資産をポルシェという別の資産に置き換えたと考えることができるわけです。
もちろん、購入時の諸費用やその後の維持費は必要ですし、将来売却するときに同じ金額で売れるとは限りません。
それでも、購入した瞬間にそのお金の価値がすべて失われてしまうわけではないという点で、一般的な消費とは本質的に異なると思います。
この違いは、非常に大きいのではないでしょうか。

■ 楽しみながら資産を所有できるという魅力
しかも、クラシックポルシェの場合は、ただ資産として保管しておくだけではありません。
休日にガレージから引っ張り出して、空冷エンジンの音を楽しみながらドライブする。
お気に入りの道を走ったり、仲間とツーリングに出かけたり、ときにはガレージで愛車を眺めながらお酒を飲む。
そういった楽しみを何年にもわたって味わうことができます。
旅行であれば、旅行が終われば思い出が残ります。
高級なワインであれば、飲み終われば素晴らしい味の記憶が残ります。
しかし、ポルシェの場合は、楽しんだ翌日も、翌年も、そして10年後にも、その車両が手元に残っている可能性があるのです。
さらに、その間に車両としての価値が大きく失われていなければ、長年楽しんだ後に売却して、購入資金の以上の金額を回収できることもあります。
趣味として存分に楽しみながら、同時に資産としての価値も持ち続けることができる。
これはクラシックポルシェならではの、非常に大きな魅力だと思います。

■ なぜ古いポルシェには価値が残るのか
もちろん、すべての自動車がこのような価値を持つわけではありません。
一般的な自動車は、新車で購入した後、年数の経過や走行距離の増加とともに価値が下がっていくことがほとんどです。
しかし、クラシックポルシェの場合は少し事情が異なります。
930や964、993といった空冷911は、すでに生産が終了しており、今後新たに造られることはありません。
一方で、世界中に空冷ポルシェを愛する人たちがいて、今でも良い個体を探し続けています。
しかも、現存する車両の中には、事故や腐食によって失われたものや、過去の不適切な修理や改造によって本来の価値が損なわれてしまったものも少なくありません。
つまり、生産台数が限られているだけでなく、本当に良い状態で残っている個体となると、その数はさらに限られてくるわけです。
これがクラシックポルシェの希少価値を支えている大きな理由の一つだと思います。

■ 高額なポルシェが必ずしも良いポルシェとは限らない
ただし、ここで大切なのは、価格が高ければ高いほど価値のある車両というわけではないことです。
同じ964カレラ2であっても、過去の整備履歴や車両の状態、修復歴、オリジナル性などによって、その価値は大きく変わってきます。
一見すると非常に綺麗でも、機関の状態が良くなかったり、見えない部分に問題を抱えている車両もあります。
反対に、多少の経年変化があっても、長年きちんと整備され、大切に扱われてきたことが伝わってくる車両もあります。
また、オリジナルの状態を大切に維持した車両だけでなく、しっかりとした技術と考え方に基づいてレストアやモディファイが施された車両には、それとはまた違った価値があります。
重要なのは、単に高額な車両を購入することではなく、その価格に見合った本当の価値を持つ個体を選ぶことだと思います。
この点は、長年クラシックポルシェを扱ってきた我々が、特に大切にしている部分でもあります。

■ 10年、20年と楽しんだ後にも価値が残る
当社では長年にわたって数多くの空冷ポルシェを販売してきましたが、過去に当社からご購入いただいた車両を、10年、20年という年月を経て再び買い取らせていただくこともあります。
お乗り頂いていた期間が長ければ長いほど、当時の販売価格を上回る金額で買い取らせていただくケースがよくあります。
例えば、仮に15年前に500万円で購入したポルシェを、現在1,000万円で売却できたとしたらどうでしょうか。
15年間、そのポルシェを所有し、走らせ、趣味として楽しんできたうえに、購入時よりも高い金額で手放すことができたことになります。
もちろん、その間には整備費用や税金、保険料などが必要ですので、単純に500万円儲かったという話ではありません。
それでも、15年間も趣味として楽しんだ車両が、購入時以上の金額で売却できるというのは、一般的な自動車ではなかなか考えにくいことです。
もちろん、今後も同じことが起こる保証はありません。
しかし、これまで実際にそうした例を数多く見てきた我々としては、クラシックポルシェには単なる自動車以上の価値があると感じています。

■ ポルシェを買うことは、決してお金を捨てることではない
1,000万円、2,000万円という金額を聞けば、多くの方は非常に高価な買い物だと感じるでしょう。
もちろん、それは間違いありません。
しかし、その金額をすべて「使ってしまうお金」として考えるのか、それとも「形を変えて所有する資産」として考えるのかによって、見方は大きく変わってきます。
例えば、1,500万円のポルシェを購入して10年間楽しんだ後、仮に1,400万円で売却したとします。
この場合、車両の売買価格だけを見れば、10年間で100万円の値下がりです。
実際には維持費や諸費用などもかかりますが、少なくとも1,500万円すべてを消費したわけではありません。
その間、好きなときにポルシェに乗り、休日のドライブを楽しみ、ガレージで眺めながら満足感を得ることができたわけです。
そう考えると、クラシックポルシェという趣味は、一般的に思われているほど贅沢なものではないのかもしれません。
むしろ、趣味として楽しんだ後にも相応の資産価値が残るという意味では、非常に合理的な一面も持っているのではないでしょうか。

■ ただし、最も大切なのは自分が本当に好きなポルシェを選ぶこと
ここまで資産価値についてお話ししてきましたが、私は決して、値上がりを期待してポルシェを購入することをお勧めしているわけではありません。
クラシックポルシェの相場はこれまでは長期的なチャートで見ると上昇基調で推移していますが、これから先も必ず同じように推移するとは限りません。
また、古い車ですから、思わぬ整備費用が必要になることもあります。
だからこそ、購入する際に一番大切なのは、将来いくらになるかということよりも、自分自身がそのポルシェを本当に好きかどうかだと思っています。
930の荒々しい乗り味が好きな方もいれば、964のスタイルに魅力を感じる方もいます。
また、オリジナルにこだわる方もいれば、自分好みに仕上げたナロールックやレストモッドを楽しみたいという方もいらっしゃいます。
どれが正解というわけではなく、それぞれに魅力があると思います。
本当に気に入った車であれば、仮に一時的に相場が下がったとしても、走らせる楽しみや所有する喜びが失われることはありません。
そして、長年楽しんだ結果として、資産価値まで維持されていたとしたら、それ以上に素晴らしい趣味はなかなかないのではないでしょうか。

■ 良いポルシェを、良い状態で次のオーナーへ
ポルシェは、ただの移動手段ではありません。
また、単に高価な贅沢品というだけでもありません。
趣味として楽しむことができ、所有する満足感があり、そして大切に維持していくことで、次のオーナーへ価値とともに引き継いでいくことができる。
そうした特別な存在だと思っています。
旅行や美味しい食事など、その瞬間を楽しむためにお金を使うことも素晴らしいことです。
しかし、クラシックポルシェには、それとはまた異なる魅力があります。
お金を使って楽しみを買うだけでなく、お金の形を変えて資産を所有し、その資産を使って何年にもわたり楽しむことができる。
私は、この考え方に非常に共感しています。
そして、このような価値を持つポルシェだからこそ、我々のような専門店には、良い個体を見極め、適切な整備を行い、できるだけ良い状態で次の世代へ引き継いでいく責任があると思っています。
これからもガレージJでは、単に高額なポルシェではなく、長く所有するにふさわしい、本当に価値のあるポルシェをご紹介していきたいと考えています。